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民事信託(家族信託)に用いる銀行口座開設に向けて

 だいぶ前に投稿したまま間があいてしまいました.さて,過去に「 信託口の預金口座を開設できる銀行?? 」にて述べましたが,2019年頃の段階ですでに民事信託(家族信託)で用いる信託財産を預入しておく銀行口座は開設することができました.2023年になり少し情報をアップデートします. この間,証券会社ではかなり前から取り組んでいた野村證券のほかに,マネックス証券が傘下のマネックスSP信託を通じて有価証券等の信託することができるようになりました.色々と整備されつつあります. 肝心の銀行のほうは,三井住友信託銀行が先陣を切っていると思うのですが,各地の信用金庫や地方銀行において口座開設が可能になってきています.ただ,三井住友信託銀行での口座開設と信用金庫や地方銀行での口座開設では開設手順が少々異なる様相です.少し概要をまとめてみます. 三井住友信託銀行 三井住友信託銀行での信託に用いる口座開設ですが,士業が関与している契約書案文が必要です.なお,士業については三井住友信託銀行から指定されるわけではありませんので,委託者等が相談をしている士業から三井住友信託銀行にコンタクトを取ってもらって作業を開始するというものです. なお,民事信託用の口座であるからといって特別な口座開設や口座維持にかかる費用などはありません. 大まかな手続きの流れは以下の通りです. 士業から三井住友信託銀行へコンタクトする.この段階では信託契約は公正証書の案文(ドラフト)の段階であることが望ましいです.士業の絡まない契約書面であることが必要ですので,委託者と受託者がネットなどにあるひな形を参考にして書いたものでは受け付けられないと思われます. 士業と三井住友信託銀行との間で公正証書の案文について,三井住友信託銀行が口座開設に適した契約内容になっているかリーガルチェックします.ここで修正依頼などがあり,その修正内容が委託者,受託者,受益者にとって問題のないものであれば,修正を行います.自益信託以外のものや連続型の契約の場合は口座開設が難しいかもしれません. 士業と三井住友信託銀行との間で書面が固まった段階で,公証役場にて公正証書とします.ここの公正証書にする手続きは士業の方が良くご存じでしょうから 公正証書が完成したら,受託者が公正証書を持参してあらかじめ予約した三井住友信託銀行の店頭にて口座開設の...

信託口の証券口座というものは開設できるのか?

民事信託を活用しようと考えているような委託者の場合,保有資産の中に上場株式や投資信託などがあるケースがあるでしょう.(ここでは,オーナ企業の未上場・未公開株等ではなく,一般に東京証券取引所などで売買されている株式や証券会社で販売している投資信託を想定しています.)

もし,委託者に後見人が就くような状況になった場合,その際に委託者本人の手元財産に上場株式や投資信託などがあったとすると,大抵の場合,後見監督人から「値下がりして財産を毀損してしまっても困るので,売却して利益確定してください」というような話が出てくるケースが多いのではないかと思います.

こうなると,たとえば,その中に高配当な株式などが含まれていたりするとかなり残念な感じですね.

ではどうするか?委託者から追加信託という形で上場株式や投資信託を信託財産に組み込むということが契約上可能であればそれを試みても良いでしょう.ただ,問題は証券会社がそれを可能とするか?ということです.信託法にあるように,信託財産として管理するものについては,名義書換できるものについては名義変更して管理処分することが必要です.となると,現金と違って株式は「名義」という概念が明確にあります.となると,「信託」という誰のものでもないけど,事務手続き上は「誰かの名義」にしないと中に浮いてしまうことになり,そんなことは事実上できません.

となると,証券会社に信託口の口座を作成してもらえるかどうか?また,信託財産ではあるが,一旦,配当が払われる人(法人)は誰か?ということを明確にする必要があります.

ここで問題となるのは二つ.
  1. 証券会社に信託口の証券口座を開設してもらえるか?
  2. 配当金等の税務処理をこなせるか?
になるでしょう.

今回はまず問題提起までにしますが,順に考えみましょう.

証券会社に信託口の証券口座を開設してもらえるか?

さて,これどうでしょうか.窓口に言って「信託口の証券口座を...」と説明しても大抵の場合は「投資信託ですか?」とか「信託銀行の代理店もやっているので,いくつか信託銀行の商品をご紹介しましょうか?」なんてかなり頓珍漢な対応があることがほとんどでしょう.ええ,私もそうでした.そもそも,民事信託とは?とかから丁寧に説明する必要がありますし,いきなりふらっと窓口に来てそんなことを質問してもたいていの場合は先方(証券会社)も対応できるほど,取り組んだ経験はたいていありません.

ということで,まずは委託者なり受託者が利用している証券会社(ネット証券は残念ながら対応しているところはないと思います)の支店窓口に事前に簡単に用件を伝えた上で予約して訪問することをおすすめします.

証券会社が気にするのはいろいろとありますが,仮名取引なのではないか?とか証券会社っぽい視点で気にしています.よって,かなり丁寧に説明できるように資料等を持参していくのが誠実でしょう.資料というのは,どういった信託のスキームになっているのかとか,委託者はどんな株式を保有していて,追加信託を希望しているのか?とかでしょうか.すでに公正証書になっている信託契約書があればそのコピーなども役立ちますが,最初から見せても先方は困るはずです.というのは,契約書の確認は大抵の場合支店ではなく,本部の法務専門家が確認するケースがほとんどです.

契約上,株式等の管理処分が認められないような場合はそもそもこの話にはなっていないはずですが,そうでないケースであったとしても,証券会社マターで対応してもらえないこともあるかと思います.それはやはり仮名取引なんじゃないかとか,単に証券口座として提供するだけだが,ほとんど売買されない場合,証券会社の手間(リーガルチェック等)ばかりかかってしまい,ビジネス的に困難である,などいろいろあるでしょう

配当金等の税務処理をこなせるか?

これはまだほとんどの人(委託者,受託者,そして税理士や税務署)は経験したことないんじゃないかなーと思うわけです.そもそも民事信託の利用が低調な状況で,信託口の証券口座を開設できて,その配当金や売買の損益通算などを行ったことのある方はほとんどいないでしょう.ゼロとは言いませんが,ほぼいないのでは無いかなと.

さて,何が気になるか?というと,たとえば配当金が支払われるとしましょう.この配当金は信託口に紐づく管理者,つまりは一義的には受託者に対して支払われます.この際,証券会社で特定口座なのか一般口座なのかわかりませんが,どちらにせよ所得税,住民税,復興税などを源泉徴収されるとなると,それは受託者が受益者にかわって立て替えている状態になると思います.

さて,ここからですね.実際の配当金は受益者に帰属するとなると,配当金を受託者が受益者に支払う必要があります.この際,税金関係についてもクリアしないといけないので,受託者に支払われる際に源泉徴収された税金を信託財産から充当してもらうというのは合理的な考え方です.受益者は,源泉徴収されていない状態配当金をもらった状態になっているので,受益者は確定申告の際に当然のことながら税金の支払いが必要です(これは,信託財産から支払うものなのか,受益者の手元財産から払うのか?というのはどちらでも良いと思うのですが,受益者の名前で支払う納税する必要があるでしょう.).

この状態のままだと,受託者は源泉徴収されたものを取り返す必要があります.よって,受託者は個別に確定申告時に届け出る必要があります.

ここからわかることは,特定口座でも一般口座でもどちらでも良いのですが,源泉徴収ありの口座にしてしまうと対応が面倒になるということです.それは,受託者が源泉徴収されたものを取り返す処理が増えるということです.

このあたりをきちんと考えた上で課税関係もきちんとこなしていけるのか,そもそも配当金が支払われるという時点で年間3万円の利益の壁を超えるケースに該当することがほとんどでしょうから,税関係の調書なども必要で,それは対応できるのか?ということをかなり真面目に考えないといけません.ちなみに,確定申告の締切は基本的には3月中旬ですが,調書関係は1月末が締め切りです.1月頭に証券会社から資料が届いたら大急ぎで対応する必要があり,これを年末調整や医療費控除くらいしかしたことのない一般の人が対応するのは極めてリスキーです.

ということで,税務処理をクリアするためには税理士を仲間に引き入れる必要があります.ただ,大変残念なことに前述したとおりではありますが,このあたりを理解しているあるいは対応したことのある税理士はほとんどいないでしょう.

信託口の証券口座というものは開設できるのか?

というタイトルに対して,開設できる可能性はあるけれど,それ,本当にやります?というのが今回の問題提起といいますか,委託者あるいは受託者に対する投げかけです.もちろん,相当な資産家の場合は,プライベートカンパニーなどがすでにあって,うまくやっていくスキームが別にできているかもしれませんし,無理して民事信託のスキームに乗せるのが最善の策とも言えないケースもあるでしょう.

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